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2016年03月23日

フォーラム開催レポート(2) 東北,日本,世界から考える,地方創生にチェンジメーカーが果たす役割

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第Ⅰ部では、ニューオリンズとデトロイトからのゲストも招いて、ハリケーン・カトリーナ、財政破綻、そして東日本大震災から各地が歩んで来た道のりを振り返り、そのうえで今後の地域のあり方についてディスカッションしました。

■「まわりの人たちが巻き込まれたくなる状況」を

冒頭ではETIC.代表理事の宮城治男がファシリテーターとして、「これまでの5年間に重要な役割を担っていた5人の方に、国も立場も越えて登壇していただきます。1つの結論を出すというよりも、みなさんご自身が次のステージにどう向かっていくかを考えていただく機会になれば幸いです」と話し、パネルディスカッションはスタートしました。

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まず、復興庁事務次官の岡本全勝氏が、政府としての復興の見通しを「岩手や宮城では、高台移転が半分終わり、あと2年で9割終わるでしょう。道路もほとんど復旧しています。福島の状況は違いますが」と話しました。「しかし働く場所がなければ、復興ではありません。政府は施設の復旧に対しては補助金を出しました。7〜8割は復旧していますが、売り上げが延びないのです」と限界を指摘。壊れてしまったコミュニティの再構築もまた大きな課題だと岡本氏は強調します。「お金を出してコミュニティができれば安いものなのですが、そうはなりません。NPOにも入ってもらい、阪神淡路大震災のノウハウなども提供してもらう必要があります。復興庁はお金を出したり、人をつないだりすることはできますが、アドバイスできるのはプロの方々なのです」

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次に、一般社団法人あすびと福島の代表理事である半谷栄寿氏が「“福島は違う”というお話がありました。そこには人災があったという話も」と、南相馬市小高区出身、元東京電力執行役員という経歴と原子力事故への責任も踏まえながら、福島での活動について話しました。「福島の復興には時間がかかります。だからこそ、あすびと福島の志は、福島の復興を担う人材の育成であります。復興のリーダーが生まれてほしいと考えています」と、高校生、大学生、社会人、それぞれを対象にした起業教育の実践例を紹介しました。「まわりの人たちが巻き込まれたくなる状況をつくること。これがパートナーシップの基本だと思います」

■ニューオリンズとデトロイトの経験から

続いて、東北に先立って危機を経験し、それを克服しようとしてきたニューオリンズとデトロイトからのゲストより、それぞれの取り組みが紹介されました。

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米国ニューオリンズに拠点をかまえるザ・データ・センターの代表兼主席人口統計学者アリソン・プライヤー氏は、ハリケーン・カトリーナに直面したニューオリンズにおける、データを活用した復興支援活動を紹介しました。「ハリケーン・カトリーナのさいには全世界から支援しただき、たいへん感謝しています。ニューオリンズでは人口や経済は回復しました。しかし近年、回復の速度が鈍化しています。また、教育や警察、医療といったインフラの整備はいまだ脆弱です」

その一方で、注目すべき傾向もあります。「スタートアップ企業が増え、人口あたりの起業件数は全米よりも64%高くなっています」と、プライヤー氏は具体的なデータを挙げて説明します。「災害前のニューオリンズは、東北と同様に経済の停滞、人口の流出といったダウントレンド(下落傾向)にありました。私たちはいま、新しい道筋にいるのです」。ただし、人種による所得格差など課題は残っている、とも念を押します。

プライヤー氏の話を受けて宮城は、貧困層向けの保険商品を展開しようという起業家が、あえてニューオリンズで創業し、ここから全国への展開を目指していることなどを補足し、起業率の高さについて「ブレインが出て行くまちからブレインが流入して来るまちへと変わっている、とも聞いています」と言いました。

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続いて米国デトロイトのポニーライド共同創設者フィリップ・クーリー氏が、財政破綻後のデトロイトでの取り組みについて話しました。「デトロイトはものづくりのまちですので、やはりものづくりにこだわってきました」。同時に、デトロイトにある湖、川といった自然環境にもこだわってきた、とクーリー氏は言います。「農業もまちの力になっています。できるだけ地産地消をしていこうということで、農業の振興も行なってきました」

そして「ポニーライド」というプロジェクトでは、廃墟となっていた倉庫を買い取って、社会的意識の高いアーティストや起業家たちに活動拠点を安価で提供していることを、クーリー氏は写真などを見せながら紹介します。ほかにも、現在は人がいなくなった場所をアートミュージアムしたりするなど、「まちが生まれ変わるところを目の当たりにしています」とクーリー氏。「コミュニティの人々が集まれば、いろんなことが起きうるのです」

宮城は、ニューオリンズでもデトロイトでも「参加する意識が重要だ」と聞いた、と言います。「東北はもっと小さい地域なので、そういう一体感をつくりやすい雰囲気があります」と、話を東北に接続しました。

■被災地の課題は日本共通の課題

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ヤフー株式会社ツール・ド・東北実行委員会運営ディレクターの須永浩一氏は、同社が2012年のミッションとして掲げた「課題解決エンジン」を旗印に、インターネット企業ならではの支援活動を展開してきたことを紹介しました。たとえば、ようやく産業が動き出したのに販路がなくなってしまった、という地元企業の声に応じてEコマースサイト「復興デパートメント」を2011年のうちに開設。2012年には復興事業の拠点として「ヤフー石巻復興ベース」を設立し、同社のオフィスとしてだけでなく、コワーキングスペースとして活用されています。2013年から始まったサイクリングイベント「ツール・ド・東北」では、去年には8億円以上の経済効果があったといいます。

「宮城県に入ってわかったことは、新しい価値、新しいビジネスをつくることが必要だということ。継続するためにはマネタイズも必要。そしてそのためには、人をつくることが必要だということです」と須永氏は言います。「被災地の課題というのは、日本中共通の課題じゃないかな、と思います。ここで得たやり方を、失敗も含めて広げていきたいです」

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須永氏の話について宮城は「こうした復興にかかわる事業は、未来の事業に寄与していくものであることを意識しながら進めていると思いますが、社内ではどう受け止められていますか?」と尋ねました。
コストもかかっているので、「社内でも『いつ収益化するんだ!?』という話も実はあったりします」と須永氏は明かします。「例えばツール・ド・東北は、毎年開催を継続するために黒字化にこだわって、2年目から実現できました。」「長い目で見たときには、ここでやっている取り組みというものが、今後のスモールビジネスにつながりますし、インターネット企業だからこそ、トライアンドエラーを繰り返しながらそれをできるとわれわれは思っています」

また半谷氏は、いま南相馬市には、大きな企業から1000人単位の社員が研修として送り込まれていることを例に挙げ、彼らの認識は「ヤフーさんのご認識とまったく同じなのですよ」と指摘します。「社会課題を20年先取りした南相馬では、復興策として役に立つビジネスはどんなに小さくても、20年後の日本社会にとって大きなソーシャルビジネスになります」

■起業家、行政、企業、NPOがつながるために

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宮城はこれまでの話を受けて、「民間とのパートナーシップ」について考えていることを、岡本氏に尋ねました。復興庁の岡本氏はその質問に答える前に「ニューオリンズでは起業率が高いというのは、何が魅力なのでしょう?」とアメリカからのゲストに問いかけます。

プライヤー氏は「ニューオリンズはもともと音楽の町で、若い人たちはその魅力を知っています。ただ、そうした若いエネルギーだけでは不十分です。いろいろな団体が行政と話し合いを続けることによって、資金を集められるようになり、起業しやすいようなエコシステムができてきました。そうして全米から人が集まるようになってきたのです」と答えました。

岡本氏はその答えを聞いたうえで、宮城が尋ねた「民間とのパートナーシップ」について踏み込み、「私たちが力を入れてつくらなければならないものが2つあります」と言います。「1つは、起業家と市町村役場、そして企業をつなぐ“プラットフォーム”のような役割をするNPOです。もう1つは、県庁や市町村役場の側の、起業家やNPOとの窓口です」。復興庁にはすでにNPOとの窓口が存在するが、県庁や市町村役場にはそれがないとのこと。それをつくって、担当者や首長が変わっても存続する制度をつくらなければならない、と岡本氏は言います。

宮城が、プライヤー氏のいう「エコシステム」をつくるために政府はどのようなアシストをすべきか、とその役割について問題提起すると、クーリー氏は「まちを変えるためには、公と民のつながり、対話が必要です」と述べ、課題が浮かび上がりました。

■民間にも自治体にも「ベンチャースピリット」を

宮城が登壇者たちに「最後にひと言を」と促すと、クーリー氏は東北を視察したときに出会った、株式会社小高ワーカーズベースの和田智行氏の試みに感銘を受けたことを話しました。

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そこで宮城は「チェンジメーカー」の1人として、会場にいる和田氏を指名しました。和田氏は、原発事故の影響でゴーストタウンとなった南相馬市小高区で、これから帰還する住民たちが生活を支えるために食堂やスーパーを始めたことを説明しました。「避難区域では、お店をやる人なんて誰もいなかったんですね。だけど現場にはたくさんの方が働いていて、食事に困っていたんですよ。だから私はここで暖かい味噌汁やうどんを提供することで力になれるんではないかと思って、閉店していたラーメン屋さんを借りて、食堂を始めました。実際、始めてみたらお客さんがたくさん来てくれたのですね。事業的にもきちんと利益が出すことができました」。その様子を見て、事業再開の準備を始める飲食店さんが出てきて、和田氏もその店をもとのオーナーに返すことにしたといいます。「お店が再開する呼び水としての役割は十分に果たすことができ、再開する事業者さんに気持ちよくおまかせしていきたいと思っているところです」

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最後に宮城は、急遽、公務により遅れての登壇となった、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官の村上敬亮氏が会場に到着したことを告げ、内閣官房としての意見を求めました。「形態は第3セクターでもNPOでも株式会社でもいいのです。必要なのはベンチャースピリットを持ったパブリックビジネスだと思います。それをどういう風に立ち上げるか?」と村上氏は言います。「そういうパブリックベンチャーを支援したいと思っていて、ぜひみなさんのご活動とも何らかのかたちでごいっしょできれば、と思っています」

宮城は村上氏のことを「民間のコミットメントを活かすかたちで、東北の復興を地方創生につなげるために政策を設計している人」と紹介しました。「ただし実際に現場で拝見していると、自治体の人々のベンチャースピリットも必要だと思いました。今日が、ここに集まったチェンジメーカーのみなさんが一歩踏み込む契機になっていけばいいなと思っています」と述べ、パネルディスカッション全体をまとめました。

 

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