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2016年04月25日

第4回みちのく復興事業シンポジウム「東北から地域の未来を描く〜これからの企業の役割を考える」開催レポート(1) 基調講演「東北から生まれる地域の未来とは?」

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2016年3月8日、「みちのく復興事業パートナーズ(*)」とETIC.は、電通ホールにて、「みちのく復興事業シンポジウム」を開催しました。

東北の被災地では高台移転や復興住宅の建設が進む一方、まちや産業の復興はいまだ途上の段階にあります。しかし、東北ではこの5年間、さまざまな人々が集まり、さまざまな試みがなされ続けています。この復興という過程で、東北のみならず、日本の地方創生の契機が生まれつつあります。

地方創生において、企業は何ができるでしょうか? この日、東北復興に取り組む企業のコンソーシアム「みちのく復興事業パートナーズ」はゲストもまじえ、地方創生における企業の取り組みについて議論しました。

 

*みちのく復興事業パートナーズ
東北の自立的な復興を後押ししていくことを目的に2012年6月からスタートした企業コンソーシアム(事務局NPO法人ETIC.)。いすゞ自動車、花王、ジェーシービー、電通、東芝、ベネッセホールディングスの6社が参画している。(2016年5月現在)

■「被災地? 東京だって同じです」

シンポジウムは、基調講演とプレゼンテーション、ディスカッションという3部構成で進みました。主催者からのあいさつの後、基調講演「東北から生まれる地域の未来とは?」が始まり、株式会社日本総合研究所の主席研究員・藻谷浩介氏と、株式会社森の学校ホールディングス代表取締役の牧大介氏がそれぞれの立場から、復興と地方創生における企業の役割について問題提起しました。

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先頭を切った藻谷氏は「みなさんが知らないといけない日本の現実を話します」と宣言するように話し始めました。そしてまず、阪神大震災とは違って東日本大震災では建物が壊れたことによって生じた被害はきわめて少なかったこと、津波に対しても耐震改修をした建物は流されなかったことを指摘します。「しっかりと考えて備えをしていれば、近代技術である程度勝てるということです。少なくとも建物は、地震と津波には勝てるということがわかったのです」

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そのうえで、日本では住宅8軒のうち1軒が空き家であることを藻谷氏は示します。「知らない人ばっかりなのですよ」。空き家の率が最も高いのは山梨県で22%。次いで長野県の20%。「東京の人が別荘をつくって放置しているからです」。その一方で、最も低いのは宮城県で9.1%。これは「津波で流れてしまったから」だと藻谷氏は説明します。「津波で奇跡的に助かったけど、家は流されてしまった人たちが空き家を借りに行きますから、空き家が減るわけですね」

藻谷氏は参加者たちに「日本で空き家がいちばん多い都道府県はどこでしょう?」とクイズを出しました。「東京に決まっていますよ。82万軒も空き家があるんですから」。次いで大阪、神奈川、愛知、北海道、千葉、兵庫、埼玉、福岡。「大都市ばかりですよ」と藻谷氏は強い調子で述べます。

消費は減っているのに、なぜか家だけが売れていて、新築マンションの値段が史上最高になっている。その影では、史上最高の数の空き家が発生している。そうした現状を知らないままマンションを買っている人に話を聞いてみると、「被災地? あんなのほっときなさいよ。東京だけ元気ならいいんだよ」と話す人もいるそうです。しかし藻谷氏は「これ、“元気”と言えるんですか?」と疑問を呈します。

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“東京が元気で、田舎は死んでいます神話”というものが、ありとあらゆる数字の証拠に反していわれ続けていて、「大企業はそれで食いつないでいる」と藻谷氏は批判的に言います。その一方、北海道などのデータを見ると、司法書士1人あたりの人口は、地方よりも都会のほうが少なく、そのことに気づいた司法書士のなかには都会から地方に拠点を移す者もいる、とのこと。「これ、被災地で起きていることと同じだぜ! 女川で一生懸命、石けんをつくっている人と同じだ! 彼らは奥地に引っ込んでいるんではなくて、中心に向かっているのであり、その地域を支えているのです」

藻谷氏は具体的なデータを挙げながら、東京こそが危機にあることを指摘します。東京の人口は増え続けているのですが、65歳以上の高齢者だけが増えており、15歳から64歳までの「生産年齢人口」はむしろ減っています。「この事態はみなさんが“田舎”と思っている県で、いまから20年前に起きたことですよ。20年遅れて東京でも起きているのです。東京の成長はもう終わりました」

“クルマのまち”として知られる愛知県豊田市でも同様で、これまで人口が増え続けてきたが、団塊の世代が続々と退職し、65歳以上の高齢者だけが激増しています。豊田も東京と同じく、医療・介護の体制が整っていない、と藻谷氏は指摘し、『地方消滅』(中公新書)で有名になった増田寛也氏の『東京消滅』(中公新書)、とくにその巻末を参照することを参加者たちにすすめます。

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東北では震災以前から人口が減り続けています。「被災地? 東京だって同じです。外国人がいなくなかったら、やばいですよ」。東京では、遠からず75歳以上の人口が激増し、「福祉そのほかが絶対にもたなくなる」と藻谷氏は警告します。一方で、地方にこそチャンスがあることを藻谷氏は主張します。「むしろ高齢者がほとんど増えない田舎のほうがリスクが少ない」

「大きなチャレンジをしている若い人の話をぜひ聞いていただきたい。彼らは直感的にこの事態がわかっていて、衰退する地域から再生の芽をつくることが日本だけでなく世界を救うことを知っているのです」

最後に藻谷氏は、島根県邑南町を例に挙げます。邑南町も高齢化が進んでいます。しかしこのまちは「全然崩壊していない」と言います。「ホームレスは1人もいないし、食べ物はおいしいし、そしてなんと、出生率が2.65もあります」。邑南町では24時間小児科救急などが充実しており、「引っ越して入って来る若い人のほうが、出て行く人よりも多い」とのこと。

「確実に新しい動きが出てきている。彼らは逃げているのではなくて、中心へと、世の中の本筋へと走っているのです」と、藻谷氏は地方にこそ希望があることを再確認して話を締めくくりました。

 

■自分が幸せになる覚悟があるか?まちおこしは、自分おこしの積み重ね。

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一方、牧大介氏は「地方にまだまだチャンスがあるというお話でしたが、岡山県の例を話します」とプレゼンを開始しました。牧氏が代表取締役を務める森の学校ホールディングスでは、岡山県西粟倉村で「ほったらかしの山をなんとかしよう」として、林業に取り組んでいます。

牧氏によれば、西粟倉では同社が「木材の流通でハブに」なっており、売り上げが伸びているといいます。「われわれのような小さな企業が入って行くニッチ市場はあるのです。山から出る資源をどう利用するか? 林業ですら結構な結果が出ているのです」

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村の人口は1500人弱。ところが園児・児童・生徒の数を見ると、2011年度を最低として、V字型に増加しつつあります。「残念ながら出生率こそ増えていないものの」と牧氏は言いますが、子どもの数は着実に回復しているのです。

反発もあったものの、村がベンチャー企業や移住者を受け入れ、支援していることが、この傾向の背景にあることを牧氏は指摘します。

西粟倉では、村の人事部と呼ぶ「雇用対策協議会」を2007年に立ち上げました。2008年には「百年の森林構想」が旗揚げされます。そして2009年、「百年の森林事業」が開始され、林業の再生による村おこしが本格化しました。

しかし、「森と木があっても、価値は生まれてこない」と牧氏は指摘し、「やる人探し」が重要だと言います。

牧氏は、ある若い男性が西粟倉で仕事を始めたころの「使用前」の顔写真と現在の「使用後」の顔写真を並べて見せます。現在の顔のほうが貫禄あることは明らかです。「ここは楽しいよと呼んでおいて、落とし穴に落として、『がんばれよ』と言っているみたいなことですね。いまでは立派な人間になっています」。そのほかにも、日本酒が大好きな若い女性が移動式の居酒屋を始めたところ、大好評だったことなども紹介されました。

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西粟倉ではベンチャー企業や移住者を支援しているのですが、西粟倉・森の学校が「地域おこし協力隊」の「挑戦者募集」をするさいには「定住しなくていいんです」と言っている、といいます。「自分の物語をこの村でしっかりと生きた。この村で精一杯の挑戦をやってみた。そのことは村にとっても、あなたにとっても、きっと重要な意味を持つはずです」という説明文を、牧氏は紹介します。

「まず自分が幸せになる覚悟があるか?」、「ミッションは自分おこし」などといった言葉とともに、若者たちががんばっているうちに地域になじみ、それぞれの人生を大切にすることが起業家の卵を育んでいく、というのが牧氏の考えであり、西粟倉の考えだといいます。

「地域おこしというのは、森が育っていくように1人ひとりの自分おこしの積み重ねでしかないので、そのための舞台を誰がどうつくっていくのか? そういった1人ひとりの自分おこしをどう支えていくか? 似た冒険心を持つ人が集まって来れば、同様な気質の人々を集めるきっかけになり、ハブになりインフラになる。自分自身がそうしたハブ機能を果たすことができれば、と思っています」

牧氏はそう話して、プレゼンを終えました。

藻谷氏の指摘した都会の危機と地方のチャンス。牧氏の紹介した地方のチャンスの実現化例。この2人の基調講演は会場に大きな余韻を残し、次のプレゼンテーションが始まりました。

 

>第4回みちのく復興事業シンポジウム開催レポート(2) プレゼンテーション「東北から生まれている新たな可能性とは?」

>第4回みちのく復興事業シンポジウム開催レポート(3)ディスカッション「これからの企業の役割を考える」

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